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新春の獅子舞は「悪魔祓い」。新城郷土芸能囃子曲持保存会の技芸で新年を寿ぐ

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ひと足ごとに暮れが押し迫ってゆくのを肌で感じる頃。心安らかに休暇を迎えるべく残務の仕上げにスパートをかける人たちや、久方ぶりに集う笑顔の面々に思い馳せ、正月仕度を整える家々など、日増しに澄んでゆく冬ならではの空気感が年末はひときわ清浄なものになっていくようです。

ここ中原区の新城界隈では、毎年お正月の2、3日に新城地区の家々を獅子舞が悪魔祓いに巡行しています。これは新城郷土芸能囃子曲持保存会の皆さんによる新春恒例の行事なのです。

起源は明治時代初期にさかのぼり、保存会創設は昭和48年という新城郷土芸能囃子曲持保存会の代表を務める矢嶋 一義さんにお話をうかがってきました。

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矢嶋 一義

新城郷土芸能囃子曲持保存会 代表。昭和47年「囃子連中」に入門、現在7代目の代表を務める。年間の主な活動行事は、毎年10月の新城神社秋季祭礼、1月に新春町内獅子舞巡行、3月に川崎市民俗芸能発表会参加。その他、新城小学校や地域イベントでの公演、福祉施設の訪問公演などがある。

 

 

村の力自慢技を起源に持つ「曲持」にお囃子が加わり「囃子曲持」へ。受け継がれ、発展を遂げながら新城独自の芸能へと磨かれゆく。

 

まず保存会の名称にその成り立ちの歴史が込められています。「囃子」と「曲持」、本来これらはそれぞれ別に活動していたもので、昭和48年に統合し郷土芸能保存会が生まれました。私は昭和47年に「囃子連中」に入門して、現在7代目の代表を務めています。それではまず、新城郷土芸能囃子曲持保存会の持ち味と言える「曲持」について説明しましょう。

 

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「囃子曲持として関東で現存しているのは深川と新城だけなんです」と矢嶋さん

もとは地域の力自慢、腕自慢の若い衆が農事のかたわらで米俵や石などを持ちあげたりして、力自慢をしたことが「曲持」の始まり。時代を経ながら持ち上げる技が多様に磨かれていき、芸へと発展していったのです。かけ声だけを背景に行っていた曲持を、笛や太鼓、鉦(かね)などの囃子が加わっていき、現在の「囃子曲持」へとつながっていきます。

 

米俵が宙を舞う「箱抜き」という大技は実にダイナミック!
米俵が宙を舞う「箱抜き」という大技は実にダイナミック!
「箱五つ差しきり」という技。緊張感が伝わってくるよう
「箱五つ差しきり」という技。緊張感が伝わってくるよう

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

昔は新作や千年まで、このあたりは一面田んぼばかりでした。農家ではお米をつくっていましたから、日頃から米俵を扱っていて、肩に担いで蔵に運んだり、荷車に載せたりしていました。村の祭りや上棟式などで、60~200kgにもおよぶ大石を持ちあげて力を競い合っていた彼らが「曲持力士」 の起源とされています。当時、力のほどを競い合うのに使った力石(ちからいし)は、現在も井田神社や住吉神社に残っていますよ。こうした力持芸はかつて他の地域でも存在していましたが、現在ではここ新城にのみ「囃子曲持」として受け継がれています。「曲持」が公開保存されているのは、関東では新城の他には深川だけだそうです。ここ新城の「曲持」は明治初めに多摩川のほとり、諏訪の森力持連中から伝わったもので、地域によってそれぞれの流れをくみ継続され、残っているものは実にさまざまな発展を遂げているものです。

 

正月時には数百軒の家々を獅子舞が訪問、戦後に復活を遂げ今も楽しみにされる縁起物は気軽に依頼ができる。

 

私たちの「囃子」、「曲持」はそれぞれ共に140年を越える郷土芸能として、昭和52年神奈川県民俗芸能50選に選ばれ、翌年には川崎市文化財(重要習俗技芸)に指定されました。保存会の主だったお披露目は毎年10月に行われる新城神社の祭礼をはじめ、お正月の獅子舞の他に県や市が催すイベントにも出演しているのでぜひ見に来ていただきたいと思います。「腹餅」と言って、あおむけに寝た力士の腹の上に米俵を重ねて餅をつく芸や、箱を縦にいくつも重ねて頭上に持ち上げるなど、脈々と受け継がれた勇壮な技をご覧いただけますよ。

お正月の獅子舞巡行は、新城地区で希望がかかったお宅を訪問していますが、実は戦争の影響で一度途絶えていた時期がありました。戦後に復活したのは昭和51年。戦前に使っていた獅子頭が傷んだ状態で発見されまして、これを修理して新城神社の秋季例大祭で復活となりました。復活当初はお正月の2、3、5日におよそ430軒ほどのお宅を回りました。2組に分かれて夕方薄暗くなるまでかかったものですが、最近は訪問数も200軒ほどとなり、2日と3日で行っています。

 

 

新城神社をスタートし、獅子が舞い、悪魔祓いをする
新城神社をスタートし獅子が舞い、悪魔祓いをする

 

正月の獅子舞は悪魔祓いです。新城地区のお宅であれば、2~3日前あたりまでにご連絡をいただければ獅子舞が訪問しますよ。遠慮なくご連絡ください。若いご夫婦や外国人の方なども見たことがないでしょうから、いい記念にもなるのではないでしょうか。
実は獅子頭には性別があるんです。「宇津」というのがおすで、「権九郎」というのがめす。近くでじっくり見ないとそれぞれの違いはよくわからないかもしれませんね。

 

人から人へ技を受け継ぐ地域の誇り。若手の育成にも熱心に取り組み、さまざまなお披露目の機会を持つ。

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技の説明に身振りも交え、熱を込めて教えてくださいます

川崎市の重要習俗技芸と認定をされる新城の地で独自に発展し続けてきた「囃子曲持」。若手の育成にはかねてより力を入れてきています。地域イベントでの公演や新城小学校3年生の社会科授業として体育館で公演と体験をするなど、自分たちの住む地で「こういうことが受け継がれてきたんだな」と記憶に留めてもらえたら、と思っています。だいたい 20~ 25 人ほどで演技しますので、後継者育成はとても重要なこと。新城神社で火曜と土曜に練習をやっていますので、興味のある方は気軽に練習を見に来てください。

 

12月31日には新城神社で22時か頃から準備をして餅をついて配ります。神楽殿でお囃子、獅子舞もやりますのでぜひ足を運んでみてください。除夜の鐘が鳴る少し前に仕度が始まり、およそ1時半頃まで続きます。

 

 

 

 

新城郷土芸能囃子曲持保存会
昭和48年保存会結成。
練習場所:新城神社
練習日:火曜、土曜(19時~21時) ※毎週ではありません。新規会員も随時受け付けており、近隣地域にお住まいで練習にきちんと参加できる方をお待ちしています。
URL: http://home.g00.itscom.net/geinou/index.html

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