ビジネスの中心で刺激と活気に満ちた東京という土地に隣接しながらも、緑も多くゆったりとした時間が過ごせる中原エリア。プロダクト デザイナーの佐野正さんは 10 年前からこのエリアに事務所を構え、数々の製品を生み出しています。コンセプトに沿って “もの” をデザインすることで、ゼロから製品を作り上げ、価値を生み出していく “プロダクト デザイン” という仕事や中原エリアでの “ものづくり”について語っていただきました。
佐野 正
佐野デザイン事務所代表、プロダクト デザイナー。1966年、東京生まれ。
桑沢デザイン研究所 工業デザイン研究科卒業後、デザイン事務所、電気メーカーを経て独立。1995年、佐野デザイン事務所を設立。日用品〜車両などのプロダクト デザインに取り組む。ユニークで実用的、琴線にふれるデザインを目指す。
・佐野デザイン事務所
http://www.sanodesign.jp/
・公益社団法人 日本インダストリアルデザイナー協会 東日本ブロック長
http://www.jida.or.jp
・Design&trade震災復興活動 代表
http://www.facebook.com/designtradejp
・NPO法人/AREEVエコエネルギーによる地域交通システム推進協会メンバー
プロダクト デザイナーとしての “ものづくり” とは、無形のものに命を吹き込むこと。その製品がたどる生涯を描き、存在感を与える仕事
1995 年に独立し、デザイン事務所を設立しました。約10年前、中原区に移り、以来この地でプロダクト デザイナーとして活動しています。
プロダクト デザイナーと言っても、一般の方には何をしている職業なのか、わかりづらいかもしれません。無形であるコンセプトや、秀でてはいても認知度の少ない技術、魅力ある商品になっていない新素材などを、デザインの力を使って具現化し、製品化する仕事です。
製品を生み出すということは、色や形をデザインして終わり、というものではありません。その製品がどういう人にどのように使われていくかを思い描きながら、コンセプト・メイキングによる着想の骨組みに沿って動いていきます。現在ではさらにそこから一歩進んで、どういう流通を経て、誰に買われていくのか、そこまでを考えて仕事をしています。
プロダクト デザインには、 3 つの仕事の流れがあります。
その 1 つは、製造メーカーから「こういうものをデザインしてほしい」という依頼を受け、要望に応じた製品をデザインしていくというもの。製品の概要はある程度決まっていることが多いのですが、私たちはその製品のコンセプトを立てるという、いわば製品に新たな存在感を与え、そのストーリーに基づいたデザインを行なっていきます。
反対に、こちらから製造メーカーにゼロベースで企画提案をしていく形が 2 つ目のケースです。技術であったり、素材であったり、何らかの強みを持つメーカーであっても、潜在的なパワーを秘めつつも、もっとその魅力を発揮できるはず!という場合において、デザインは本領を発揮すると思います。だからこそ、その強みにデザインがもたらす新たな価値やビジネスといったものを具現化していくことを提案していくわけです。
最後の 3 つ目は、私自らが企画・デザイン、量産して販売をしていくということ。これは楽しいですよ (笑) 。 「こんなものがあったらいいのに」 というふとした出発点から始められるので非常に自由がありますよね。ある意味、自分たちが小さなメーカーとなり、製品を作って販売をしていく形になります。
オリジナルプロダクトが見出した、新しい “ギフト” スタイルは、贈るときの気持ちがいつまでも残る幸福の余韻へ
今、佐野デザイン事務所で販売しているオリジナルのプロダクトには、 「クッションサン」 「リーヴス」 という緩衝材があります。人型や鳥の形、葉っぱのフォルムがリラックス感を与えます。
緩衝材という普段は完全に脇役な存在なのに、 「クッションサン」 は主役にもなれる存在。このシリーズは、ふと 「贈り物、ギフトってなんだろう?」 と考えているうちに生まれてきました。ギフトというのは、贈り物そのものだけでなく、贈るしつらえや添えるメッセージにも気持ちがこもっています。ギフトの脇役である緩衝材をちょっと素敵なものに変えることで、本来のギフトがより楽しいもの、喜びを与えてくれるといった幸福な余韻となるのではないでしょうか。
また、この 「クッションサン」 は繰り返して使うことができる点がポイント。フォルムがかわいらしいだけでなく、つないだりひっかけたりできる工夫があるので、日常の小さなアクセントになりますよ。使い回しができるのでサステナブルなアイテムですし、製造時に材料にムダがでないデザインですのでエコに配慮しています。
発想はひらめきだけでなく、日々の感じ方や視点がはぐくみゆくものだから。
四季が織りなす変容と向き合う、いつくしむ生活
中原エリアの魅力は、何と言っても街が大きすぎず、ほどよい規模感であるということ。多摩川も近いですし、サッカー場などもあり、アクティブに動けるのが魅力です。また、商店街も充実しているし、都心へのアクセスも良好とあり、私にとっては過不足のないこの感じがとても居心地が良いのです。
朝は 2 、 3 日置きに多摩川沿いをおよそ 10 キロほど走るのが習慣となりました。同じようで日ごとに移ろう、多摩川の自然を味わい、日々の変化に新鮮な感動を覚えます。こうした五感で得る発見は、私のデザインにも少なからず影響を与えていると思います。
【後編へつづく】